刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―

第二章『旅』 ノーサンロード編

022 依り代の使い道


 リーフとテラの旅に、ユズリハの精霊ヘリックスと守り人のファラムンドが加わり、4人の旅が始まった。


 日中でも肌寒くなってきた晩秋の午後の日差しの中、4人はゆっくりと歩きながら、それぞれ簡単な自己紹介をすることにした。


「私はティエラ、テラって呼んでくれたら嬉しいわ。よろしくね!」


「ぼくはどんぐりの精霊、リーフ。……よろしく」


「俺はファラムンド、ファルでいいよ。若返ったし、気軽に話してくれな。よろしく! テラ、リーフ!」


「私はユズリハの精霊、ヘリックスよ。テラもリーフもよろしくね」


「で、ところでなんだが、ふたりはどこへ向かってるんだ?」



 行き先も聞かずに共に旅をすると決めたファルは、改めて旅の行き先を尋ねた。


「私たちはノルデンの村を出て、サウディア地方へ向かってるの。サウディアには、ノルデンでは見られない薬草があってね」


「サウディア地方の薬草探しか?」


「そうなの。南の暖かい地域に自生する薬草で、薬草茶はとても美味しいらしくて。私、気になっちゃって」


「美味い薬草茶か! 俺は薬草には詳しくないけど、一緒に探すよ! どんな薬草なんだ?」


「ムーンピーチフラワーっていうんだけど……あ、本に載ってるの。リーフ、本を出してもらってもいい?」


「うん、ちょっと待ってて」


 そう言ってリーフは依り代の中に消え、再び依り代から姿を現した。

 姿を現したリーフはテラと同じくらいの背丈になっていて、手には薬草の本を持っている。

 そして、その本をテラに渡した。


 もし精霊が見えなければ、テラの手にいきなり本が現れたように見えるけれど、ファルにはリーフが見えているので、リーフが本を持って現れ、それをテラに渡したことは分かる。

 しかし、本はどこから持ってきたのか? と不思議に思った。


「え? どうなってんだ?」


「依り代の中に置いていた本をリーフに出してもらったのよ。物を持ったまま依り代に入ると、依り代の中に置くことが出来るそうなの!」


 テラは依り代の中に物を置いておく、という事を説明したのだけれど、それをファルの横で聞いていたヘリックスは大きな目をさらに大きく見開いて、驚いた様子で声をあげた。


「なるほど! そうなのね。考えたことなかったけど……持ったまま依り代に入る、依り代の中に置いておく……依り代にこんな使い方があったなんて、どうして今まで気付かなかったのかしら!」


 テラの説明を聞いたヘリックスは、驚きつつも、依り代の中に物を置くことが出来るという事を知り、とても嬉しそうに笑った。


「生物以外で自分が持てるものなら、なんでも入れられるよ」


 続けてリーフが説明を付け加えた。


「これは面白いわね。依り代の中に置いておきたいもの、いっぱいあるわ!」


 ヘリックスは、精霊界にある自身の住居に保管している『収集した品々』を依り代の中に置いておきたいと考えた。

 そんな想像を巡らせていると、思わずフフッと笑いが込み上げた。


「テラの荷物が旅をしてるのにやけに少ないなと思ってたが、そういうことだったんだな! なぁ、ヘリックス、俺の荷物をヘリックスの依り代に置いといてくれ! 頼む!」


 ファルはヘリックスに旅の荷物の保管を頼み込んだ。


「ええ、もちろん、いいわよ」


 ファルの重い荷物は、早速とばかりにヘリックスの依り代に入れてもらい、ファルは手荷物を入れたショルダーバッグだけを肩に掛けた。


 旅人とは思えない身軽さになったファルは、依り代の新たな使い道の発見で嬉しそうにしているヘリックスと共に大喜びだ。



「そうだわ。私とリーフは歩き旅だから次の町まで徒歩なの。これから4日間くらい野宿になるけど……ファルは大丈夫?」


「ああ、野宿くらい全然平気だ! むしろずっと野宿でも構わないぞ?」


「そう? それなら良かったわ!」


 ファルは野宿にも慣れているようで、頼もしい旅の同行者が増えてテラは嬉しくなった。

 やはり”人”が一緒というのは安心感が違う。

 傍から見て独りではないというのは、気分的にも全然違うのだ。



 ◇ ◇ ◇



 4人でわいわいと野宿に適した場所を探しながらノーサンロードを南へと進んでいく道中は、周囲の木々が色づき、紅色の葉が道端に舞い落ちていた。


 そうして、遠くで鳥のさえずりが響き渡る中、4人はその自然に溶け込むように歩き続け、日が傾き始めた頃。



「そろそろ野宿をする場所を決めなきゃだろ。リーフ、このあたりはどうだ?」


「そうだね、きれいな湧き水もあって、街道も近いし。いいと思うよ。テラもここでいい?」


「うん。それじゃ、今日はここにしようか」



 野宿の場所を決め、テラとファルが焚火と食事の準備をしている間にリーフの緑のテントがふたつ作られた。

 テントの周囲には、胸の高さほどの緑の壁も作られている。


「すごいテントだな! それに、壁まで! リーフはこんなことが出来るのか。すごいんだな!」


 ファルはリーフの力を初めて見て驚きつつも、リーフが作ったテントを触ってみたり眺めてみたり、中に入ったりして感心しきりだ。


「このテント、草と蔦でできてるのか! 触ると……普通に硬いのか……なぁ、リーフ? これ、雨でも平気なのか? 風が吹いたら飛ばないか?」


「大丈夫だよ。何重にも重ねられるから大雨も強風も平気じゃないかな。試してはないけど……」


「試してないのか!? でも、コントロールできるんだろう?」


「うん、そう。草木はぼくの思うままに成長してくれるから」


「思うままか。リーフ、すげーな……」


 ファルは憧憬の眼差しでリーフをじっと見つめた。


「どういたしまして。テントはふたつ作ったから窮屈にはならないし、快適な夜を過ごせると思うよ」


 リーフは少し得意げな様子で顔をほころばせていた。



「テントはふたつだから、リーフと私、ヘリックスとファル、でいいかしら」


 テラがファルに声をかけた。

 もちろん、テントの割り振りの確認をするためだ。


「ああ、そうしよう。ヘリックスもそれでいいか?」


「ええ、それでいいわ」



 テラとファルはそれぞれテントに入って、敷き布を広げたりランタンを置いたりと、寝床の準備をしていた。


 テラはリーフの依り代から必要な物を色々と出してもらいながらも、ふとファルが心配になって、彼のテントに足を運んだ。


「ねぇ、ファル? 毛布とか持ってる? 急に旅することになって、持ってないんじゃないかってちょっと気になって」


「ああ、テラ。心配してくれたのか? ありがとうな。でも、ヘリックスが持ってきてくれたんだ」


「え、持ってきたの?」


 テラは素直に、どこから? と不思議に思った。


「精霊界にあるヘリックスの家からな。そこに置いてあるものを持ってくるついでに、とか言って布団やら枕やら……」


 テラがテントの中に目をやると、ふかふかの布団や枕がどーんと置かれていた。


「あれ? ヘリックスは?」


「ああ、まだなんか精霊界の家から持ってくるものがあるとかで、精霊界に戻ったみたいだ」


「……精霊界……へ、へぇぇぇ……」


 どうやら心配はいらなかったみたいね、とホッとしたテラは自分のテントに戻り、リーフに出してもらった寝具をセッティングしていた。

 けれど、ファルが言っていた『精霊界』が気になっていた。



 リーフから精霊界なんて一度も聞いたことない……。

 リーフも精霊界に家があるのかな?



 リーフのこと分かってるつもりだったけど、まだまだ知らないことばかりね、とテラは少しばかり寂しく思うのだった。



 一方、ファルのテントでは、精霊界から戻って来たヘリックスとファルが話をしていた。


「ヘリックスの布団、俺が普段寝てる布団より断然良い品なんだが……」


「あら、そう? ファルはこの布団で寝ていいのよ。そもそも私、布団で寝ないもの」


「ヘリックスは布団で寝ないのか? 精霊だって布団で寝るよな?」


「布団で寝る精霊もいるけど、私は依り代の中で寝るのが好きなのよ。いつも依り代で寝ているし、この布団はファルのために持ってきたのよ?」


「そうなのか。なんだかすまねぇな。ありがとう、ヘリックス!」


「ファルは私の守り人だもの。布団くらい用意できるわ。これでも今まで何百人もの守り人と契約してきたの。人の生活必需品は一通り揃えてあるのよ」


 そう言ってクスクスと微笑むヘリックスは、じつは収集家でなんでも揃えてしまう性分だった。


 今まで契約してきた守り人たちがお礼に様々な品物をヘリックスに贈ったりもしていて、それを譲渡するのが好きなのだ。

 これはユズリハの花言葉のせいでもある。

 そのため、精霊界のヘリックスの家には物が溢れているのだけれど、それは秘密だ。



 ◇ ◇ ◇



 テントの準備もおわり、4人で火を囲んで、テラは久しぶりに誰かと食事をする楽しさを思い出していた。


「テラ、俺こんなもの持ってるんだ! どうだ? 食べてみないか?」


 ファルは小さな麻の袋から茶色いナッツのようものを手に取りだした。


「え、これ何かしら?」


「アーモンドっていうんだ。ナッツの類だね。うまいよ! なかなかお目にかかれないんだが、先日たまたま手に入れたんだ」


「これがアーモンド! とても貴重じゃない? いいの!?」


 本でしか見たことがない、初めて目にしたアーモンドに、テラの目は爛々と輝いていた。


「いいぜ! ぜひ食ってみてくれ」


「うわぁ! いただきます!!」


 テラは珍しいアーモンドをファルから貰い、生まれて初めて口に入れた。



「美味しい~! くるみと全然違うのね! 焙煎してるのかな。すごく香ばしい!」



 父さんと母さんが亡くなって以来かな。

 誰かと一緒に食べるのってやっぱり楽しいよね――。



 テラは忘れていた感覚をふっと自然に思い起こしていた。



「あ! リーフ、あれ、出してくれないかな。串焼き!」


「うん、いいよ。すぐに出すね」


 リーフは依り代に入り、テラと同じ背丈に姿を変えて串焼きを手に持って現れた。


「ありがとう、リーフ! ファル、アーモンドのお礼と言ってはなんだけど、串焼き、どうぞ。火でちょっと炙ってみて」


「お! 美味しそうな串焼きだ! ありがたく頂くよ」


 ファルはもらった串焼きを火で炙り、大きく口を開けてパクッと頬張る。


「こりゃ美味い! 今買ってきたみたいに肉が柔らかくて新鮮じゃないか!」


「買ってすぐにリーフの依り代に保管してもらってたの。鮮度はそのままなのよ」


「ということは、ヘリックスの依り代も鮮度がそのままなのか!? なぁ、ヘリックス?」


「試してないから分からないけど、そうなのかもね。依り代、便利すぎない?」


「今度試してみようぜ! な! ヘリックス!」



 ニコニコと楽しそうに食事をしているテラを見ながら、リーフは思っていた。



 テラが食事をしながら笑ってる。

 ぼくには出来ないから……

 ファルのおかげ……



 そんな様子を見つめながら、ヘリックスはふふっと微笑んでいた。