刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―

第二章『旅』 ノーサンロード編

026 リーフの光


 翌朝。吐く息が白く、冬の訪れを確かに感じる朝。


「おはよう、リーフ。今朝はずいぶん冷え込むね。調子が悪いとか、ない?」


「おはよ……もう、平気……」


 昨夜、力が解放された勢いで抱きしめてしまったせいで、リーフはなんとなく気まずく、テラの顔を見ることが出来なかった。


「そう、よかった。昨日の夜は急にどうしたのかと思っちゃった」


「驚かせてごめんね……」


「ううん、私はいいのよ。それより! リーフの光って温かいのね!」


「!?!?」


 テラの言葉に驚いて、リーフは顔を上げて振り返ると、彼女はニコニコと優しく微笑んでいた。


「初めてリーフの光を触ったというか、リーフが私を抱きしめていたでしょう? だから、リーフの光の中にいるみたいな感じになってたけど。リーフの光がなんだかふわっとしてて温かくて。その光に触れてたら、ホッとするというか、安心感を覚えたっていうか」


 リーフはまさかのテラの言葉に驚いて、訊ねた。


「ぼくの光って、温かいの?」


「ええ!とっても温かかったわ」


 リーフの光はどんぐり精霊の象徴である『もてなし』からくる寛容と慈しみの光。

 寛容と慈しみの光は優しく柔らかく温かで、それはリーフそのものを現していた。


「ぼくの光……温かいんだ……」


「リーフの光は温かくて。なんだかふわっとしてて、とても心地よくて」


 テラの目元が和らぎ、リーフの光の温もりを思い返しながら、ふふっと微笑んだ。



 リーフは自分の光を今すぐに確かめたいと思い、ぼんやりと体全体から光を発しながらテラと同じくらいの背丈に姿を変えると、テラにお願いをしてみた。


「テラ、あの……いま、抱きしめて……いい?」


 両手をテラに向け、おそるおそる、彼女に手を伸ばす。


「うん、いいよ。温めてくれるの?」


 リーフはテラの正面に動いて彼女を見つめると、テラもリーフを見つめて優しく微笑んでいる。


 ふたりはゆっくり距離を縮め、おでことおでこをくっつけると、少し照れたように笑みがこぼれた。


 リーフはそっとテラの体に腕を回し、優しく包み込むようにテラを抱きしめると、今度はちゃんと意識して、力を緩やかにコントロールしながら解放していく。

 すると、リーフの全身から温かな光が溢れ、その光はふたりを覆い、静かな温もりが広がっていった。



「私、冬は寒くて本当に苦手なの。リーフはとっても温かいね」


「…………」


 リーフはテラの肩に顎を乗せて、うつむいていた。

 その緑色の瞳はキラキラと潤んでいて、今にも涙が零れそうだった。


「ありがとう、リーフ。すっかり温まったわ」


 テラはリーフから体を離すと、気付いてしまった。


「えっ……リーフ、泣いてるの?」


 ポトリポトリと涙が溢れ落ちているのを見て、テラはびっくりしてリーフの顔を覗きこみながら心配そうに問いかけた。



「リーフ……わ、私?……私なにかしちゃったかな」


「……嬉しくて」


「嬉しいの?」


「ぼくはいつもテラに抱きしめてもらって、温もりをもらってばかりで……」


「うん」


「だから、ぼくもテラを温めたいって……」


「うん」


「だけどぼくは冷たいから……悲しくて……っ」


「そっか……。私のためにいっぱい悩んで悲しかったのね。……気付かなくてごめんね。リーフはとっても優しくて、温かいよ?」


 今度はテラがリーフを優しく包み込むように、ぎゅうっと抱きしめた。



「ね? リーフはとても温かいわ」


「温かいのはテラのほう……」


 冷え込む冬の朝、ふたりはお互いの温もりを重ねるように、ただじっと抱き合っていた。



 ぼくの光が温かいなんて……

 寒い夜は、ぼくがテラを温めるから……



 リーフはテラを抱きしめる腕にほんの少し力を込めて、軽くギュッとしてみた。

 すると、背中に感じていたテラの両手からもギュッと力を感じた。


 それがなんだかとても嬉しくて、温かくて優しい、心地よい静寂がふたりを包み、時間の流れも忘れさせてくれるようで、この瞬間に浸っていたいと思わせてくれた。


 が、しばしの穏やかな静寂を破る、大きくて元気な声が響いてきた。



「おーい! テラー!リーフ! 起きてるかーーー!」


「はーい! 起きてるよー!」


 テントの外からファルがふたりを呼ぶ声がしたので、テラは返事をしつつ、リーフに微笑みながら言った。


「ファルが呼んでるし、そろそろ準備しなきゃね。温めてくれてありがとう、リーフ」


「うん。今日の夜も温めるから!」


「ふふっ ありがとね」


 ふたりは名残惜しそうに身を離しながらも、まだほんのり残る温もりを感じていた。