刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―

第二章『旅』 ノーサンロード編

027 強化した薬草の効果


「いてててて」


「ファル、大丈夫? 見せてみて?」


「ああ、テラ。大したこと無いさ。ちょっとした擦り傷だ」


 ファルは傷口を軽く押さえながら苦笑した。

 腕にひりひりとした痛みが広がり、じわじわと血が滲んでいく。


 皆で荷物を片付けて出発の準備をしていたのだけれど、ファルが湧き水の近くで足を滑らせ転んでしまい、腕に4センチ✖8センチほどの大きな擦り傷を負ってしまったのだ。


「うん、でも……ちょっと待ってて」


 テラはリーフの依り代から消毒液を出してもらった。

 この消毒液は、薬草採取のときにリーフに頼んで守護の力を使ってもらい、強化したオトギリソウとヨモギを合わせて作ったもので、この旅に持ってきていたものだ。


「これで消毒して、洗い流さないでそのままきれいな布で覆っておくといいわ」


「おお、ありがとう。助かるよ!」


 ファルは腕を軽く動かしてみて、痛みが少し和らいだことを確認すると、ふうっと息をついた。


「リーフとテラが居てくれて良かったわ。ファル、気を付けてね?」


「はは、すまねぇ……」


 ファルは頭を掻きながら、軽く頭を下げた。


 ファルの怪我の手当をし、緑のテントと壁もリーフの力で均して、それぞれの荷物はリーフとヘリックスの依り代に仕舞ってもらうと、4人は南への旅を再開したのだった。



 ◇ ◇ ◇



 日が高くなって、そろそろお昼時になった頃。

 急に、ファルが驚いた声をあげた。


「なんか痛くねーと思ったら、今朝の擦り傷が跡形無く消えてるんだ!」


 ファルは腕をまじまじと見つめた。

 怪我をしたはずなのに、まるで何もなかったかのように綺麗になっている。

 信じられない、とばかりに何度か腕をひねって確かめた。


「よかった。消毒液だけど、擦り傷なら治るかなって思ってたのよ」


「いやいや……そんな消毒液、聞いたことないんだが!?」


「リーフの力よ。リーフの特製消毒液ね!」


「ぼくは薬草に力を使っただけ。それを消毒液にしたのはテラだから、テラの特製消毒液だよ」


 リーフは嬉しそうに笑いながらテラの方を見つめた。


「それじゃ、これはリーフ&テラ特製消毒液ね」


 テラもリーフの言葉に優しく微笑み、お互いの力が合わさったことを嬉しそうに認め合うと、ニコニコと笑い合っていた。

『リーフ&テラ特製消毒液』は効き目が抜群で、擦り傷を短時間で跡形もなく治してしまう効果があったのだった。




 ご機嫌な様子で仲睦まじく笑い合っているリーフとテラを横目に見ながら、ファルはヘリックスに話かけた。


「……売ったら大儲けできそうだけど……まあ、ふたりはそうはしないんだろうな」


「何言ってるのよ。ファルじゃないんだから」


「ええっ! 誰だってそう思うだろう? 俺は悪くないぞ!」


 ファルは『リーフが強化した薬草』から作った代物が他にもあるのでは、と気になり、興味津々でテラに尋ねた。


「なあ、テラ。この消毒液のようにリーフの力を使った薬草で他に何か作ってあるのか?」


「ええ、風邪に効く薬草茶があるわ。風邪の症状を和らげる『リーフ&テラ特製リコリスルート・カモミール・ティー』って名付けた薬草茶なの。とてもよく効くから、ファルが風邪をひいた時はぜひ飲んでね!」


「風邪に効く薬草茶か。きっと、和らげるというより、治してしまうんだろ?」


「ふふっ。それは飲んでからのお楽しみね」


 ファルが言ったことはその通りで、旅に出る前、近所に住む風邪をひいて寝込んでいたマーサおばさんに渡した『リーフ&テラ特製リコリスルート・カモミール・ティー』は抜群の効果を発揮して、おばさんの風邪の症状がすっかり消えたという出来事があった。


 薬草茶を飲んだ後、驚くほど元気になったマーサおばさんが笑顔を見せていたのを、テラはよく覚えている。

 そしてテラは、うっかり忘れていたマーサおばさんとの約束を思い出していた。



 そうだ……

 村を出て1か月経つし、

 次の町に着いたらマーサおばさんに手紙を出さなきゃ……!



 テラは『手紙を書く約束』を守るべく、次の町では必ず、と思いを固めた。



 ◇ ◇ ◇



 そうして4人での2日目の夕方。


 野宿の場所を決めた4人は、昨日と同じようにテラとファルが焚き火と夕食の準備を始めていた。

 焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、時折、薪が弾ける音が響く。

 暖かな火の温もりとは裏腹に、日が傾くにつれ、初冬の冷たい空気がじわじわと肌に染み込んでくる。


 そんな中、リーフは今日も変わらず、緑のテントをふたつ作りだしていた。


「昨日と同じで、私とリーフ、ヘリックスとファル、でいいかしら」


「せっかくだし、男同士、女同士、でもいいんじゃないか?」


 ファルは、男同士、女同士で分かれるという提案をした。

 ファルはリーフとゆっくり話をしたいと思っていたのだ。


「あら、それもいいわね。面白そうだわ」


 ファルの提案にヘリックスは賛成してクスクスと笑う。


「ええっ! ぼくはテラと一緒がいいよ」


 リーフが反対した理由は、もちろん、テラを温めたいと思っていたからだ。


「まあまあ、いいじゃねーか。男同士の話でもしようぜ! なあ、テラ。いいよな?」


「ええ。私もヘリックスとゆっくりお話したいと思ってたのよ」


「ええぇぇ」


「よし、じゃあ決まりだな! 今夜は男同士の話で盛り上がろうぜ! な! リーフ!」


「…………」


 反対なのはリーフだけとなってしまい、今夜はリーフとファル、テラとヘリックスに分かれることが決まり、リーフは肩を落としながらテラをちらりと見た。

 テラとの契約後、初めて離れて過ごす夜――それが、なんだか妙に寂しく感じられた。