刻まれた花言葉と精霊のチカラ ―精霊と守り人少女の永遠の物語―

第二章『旅』 ノーサンロード編

043 イーストゲート02 出会い~ユリアン


 食堂には香ばしい焼きたての肉の匂いが漂い、賑わう話し声が響いていた。


 テラとファルは席に座り、さっそく壁にあるメニューに目を通していると、隣のテーブルに座ったテラと同じくらいの年頃に見える少年が声をかけてきた。


「こんばんわ、旅の方ですか?」


 少年は丁寧に背筋を伸ばしながら、興味深そうにテラとファルを見つめていた。


 声をかけてきたのは、淡い紫の柔らかそうなふわっとしたショートボブな髪で、紺色の瞳をした、育ちの良さげな可憐な少年だった。


「ああ、こんばんわ。俺たちはさっきイーストゲートに着いたところだよ。君は?」


 少年は少し恥ずかしそうに微笑みながら、それでも嬉しそうに話しかける。


「僕はこの町にいるのですが、旅人と話すのが好きで、声をかけてしまいました」


 ファルは軽く眉を上げ、テラは微笑んで少年を見つめた。


「そんな堅苦しい話し方しなくていいよ。普通に話してくれ」


「ありがとう。それじゃ、普通に話させてもらうね。ふたりはどこから来たの?」


「俺は西から。彼女は北からだ。途中から一緒に旅してる」


「そうなんだね。僕は他の地方には行ったことがなくて。いいなぁ。旅って楽しそうで」


 少年の目がキラキラと輝いた。自由な風に吹かれながら旅をすることへの憧れが、声の端々から伝わってくる。


「まあな。楽しいぞ、旅は。いろんな出会いもあるしな」


「ふふ、そうね。私も旅は楽しいと思うし、旅しててよかったなって思ってるわ。こうして出会いもあったし」


 テラとファルが顔を見合わせて笑い合う姿に、少年は興味深げに尋ねた。


「ふたりは恋人同士なの?」


「「まさか!」」


 思わずぴったりと声を揃えて否定するファルとテラ。店内のざわめきの中、それが妙に響いて、近くの客たちがクスクスと笑っている。少年は驚いたように目を丸くした。


「あ、違うの? 途中から一緒っていうから、てっきりそうなのかなって」


「違う違う! それよりさ、この店のおすすめ料理を教えてくれないか?」


 話題を変えようとするファルに、少年は楽しそうに答える。


「ああ、おすすめね! この店のおすすめは『とり皮』だよ! 香ばしいタレが美味しいんだ」


「この匂いは『とり皮』のタレの匂いなんだな! よし! それを注文しよう! 他にはなにかあるか?」


「焼きとり! 鳥の様々な部位が串焼きになってて、手軽に食べられるんだ。塩味とタレ味、両方ともおすすめだよ。僕の一番のおすすめは『豚バラ』なんだけどね!」


「焼きとりなのに豚なのか? まあいいや! よっしゃ! それじゃ、一通り注文するか!」


「そうね! どれも美味しそう!」


 ひとまず、メニューの焼きとりを全種4本ずつと、黒パンとチーズの盛り合わせ、りんご酒とハーブティーを注文した。


「あ、遅れてしまったけど、僕はユリアンって言うんだ」


「俺はファラムンド。みんなファルって呼ぶからファルでいいよ」


「私はティエラ。テラって呼ばれてるわ」


「ユリアンはいつもここで飯食ってるのか?」


「いつもじゃないけど、今日はたまたまかな」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、たまたまの出会いだな」


 ファルが運ばれてきた木製のカップを持ち上げると、揺らめくりんご酒が店の灯りを映しながら光を反射していた。



 この食堂に入る前までは、リーフはテラの肩に乗っていて、リモはファルのそばにいたし、ヘリックスはその後ろをキョロキョロしながら歩いていた。


 テラとファルが食堂に入る際に、リーフとヘリックスとリモの3人はそれぞれ依り代に戻ったため、今のテラとファルは完全にふたりきりだ。


 しかし、隣のテーブルのユリアンと名乗る少年は、ふいにファルとテラのほうに身を乗り出して、小さな声で訊ねてきた。


「その、おふたりとも、守り人だよね?」


「「!!」」


 テラとファルは思わず目を見開いた。ユリアンが気づいていたことに驚き、次の言葉を探した。


「ごめんなさい。実は店の外で見たんだ。ふたりが、その、一緒にいるところを。だから厳密にはたまたまじゃなくて」


 ユリアンは少し気まずそうに視線を落としながら、それでも好奇心を隠さず言葉を紡ぐ。


「そうか。それじゃ、ユリアンもだろ?」


 突然の指摘にテラとファルは驚いたけれど、精霊が見えたということは、当然ユリアンも守り人だ。


「うん、でも僕は契約したことがないから」


「ほう、ひとりなんだ」


「あら、ひとりなの? それは……」


 テラとファルは同じことを考えた。

 守り人を探しているヘリックスに会わせたい! と。

 これは、契約の機会を得たかもしれない――ふたりの胸には、一つの確信が芽生えた。

 テラとファルは顔を見合わせて、思わずニヤついてしまう。


「なぁ、ユリアン。よかったら町の案内をしてもらえないか? 俺たちはこの町に1週間泊る予定だから、その間でユリアンの都合のいい日でいいんだが」


「僕でよければ明日にでも案内するよ」


「そうか! それじゃ明日、よろしく頼むよ!」


「地元の人に案内してもらえるなんて、すごく助かるわね! ありがとう」


「明日の朝10時くらいに宿に迎えに行くよ。どこに泊ってるの?」


 ユリアンは満足そうに微笑みながら頷いた。町の案内をすることが、彼にとっても嬉しいことのようだった。


「市場の近くにある、『ゲート・ヘイブン』って宿だ。ほんと助かるよ、ありがとうな!」


 こうして、町の食堂で出会ったユリアンという少年に町を案内してもらうことになったのだけれど、テラとファルの思惑は……もちろん、ユリアンをヘリックスに会わせることだった。