【本編10 冒険編】「自然のテントとおまじない」
大人も楽しめる絵本のイメージで物語を書いています。
よかったら読んでください😊
#本編10 冒険編
ウェストクロス3日目の朝。
今日はウェストクロスの町を出て、これから先は野宿をするのに良い場所を探しながらの旅路になります。
町並みを抜けて、自然の中をリーフとおしゃべりしながら薬草を摘み、秋から冬へ移ろいゆく風景を満喫しながら歩くのは、テラにとってとても楽しく穏やかな時間です。
それはリーフにとっても同じで、ふたりの時間は緩やかに過ぎていくのです。
そうして20kmほど歩いた頃、リーフがテラに言いました。
「テラ、今日はこのあたりで休まない?あまり暗くなるといけないし、そばに小川もある。街道も近くて安全だと思うよ」
「うん、そうだね、ここで野宿しようか」
「テントはぼくに任せて^^ ちょっと待っててね!」
リーフの瞳がじわっと光を帯び、足元から光の環が放出されると、周囲の草木がぐんぐん伸び始めました。
草や蔦が絡まり、リーフの力で自然のテントが作られていきます。
さらにテントの周囲には草や蔦を絡めて作った胸の位置ほどの高さの壁まであります。
「すごい!自然の緑のテントね!しかも壁まであるわ!」
「風も雨も防げるから、安心して眠れるよ^^ 自然のテント、どうかな?」
「ありがとう^^ リーフと一緒ならどんな場所でも安心して夜を過ごせそうね^^」
テントも壁も、遠目から見ればただの草や蔦の塊のようで、まるで自然の隠れ家です。
テントが出来上がったのを確認したテラは、焚火穴を作り、リーフのどんぐりから三脚と鍋と水、薪、火打ち石と火打ち金などを出してもらいます。
焚火穴に三脚を立て、鍋に水を入れ三脚に掛け、火を起こすのです。
テラは両親を亡くして以来ひとりで生活をしていたので、火を起こすのはお手の物です。
「食べるのが私一人だから、なんだかもったいないなぁ」
「ぼくが一緒に食べられたらよかったんだけど…」
「気にしないで^^ ひとりの食事は慣れてるもの^^ そうだ!昨日買った串焼き!」
「そうだね^^ 串焼きの他に、何食べる?」
「チーズとくるみパン、それと…りんご。串焼きは1本だけでお願い^^」
テラは串焼き1本とチーズ、くるみパン、りんごをリーフのどんぐりから出してもらいました。
「串焼きは…冷めてるわね 笑」
「ごめんね、温度は保てないみたい」
「ううん^^ 鮮度がそのままなのがすごいんだから、謝らないで^^」
リーフのどんぐりは鮮度はそのまま保てますが、温度は保てないことが分かり、ちょっと残念な結果となりました。
テラは串焼きを火で軽く炙り、沸かしていたお湯で薬草茶を煎れて、いつものようにひとりで食事をしました。
「串焼き、美味しい~!くるみパンもふわっふわよ^^ リーフのどんぐりはほんとすごいわ」
「どういたしまして^^」
食事が終わると、そばを流れる澄んだ小川からきれいな水を汲んできて、体を拭いたり、顔を洗ったり。
水がとても冷たくテラの手は冷え切ってしまったので、焚火で暖を取って十分温まってから火を消します。
日が沈み辺りが暗くなると、空には満天の星が瞬いていました。
何も無い静かな夜、どこからか虫の声が聞こえてきます。
テントに入ると、天井部分に穴が空いていて、星がのぞいています。
ランタンの火を消すと真っ暗なテントの中で天井の星だけが煌めいていました。
「今夜も星が綺麗だね」
テラとリーフはもふもふした温かそうな毛布に包まって星空を見上げています。
「ね、眠い…」
リーフは今にも眠ってしまいそうですが、テラの手をしっかりと握っています。
「リーフってば。血も飲んだし、寝ていいのよ?」
「手繋いで…星を……zzzZZZ」
リーフはすやすやと眠りに落ちてしまいました。
血を摂取したら寝てしまうのは相変わらずのリーフです。
「寝た?かな^^ 大きいまま寝ちゃったわ 笑」
リーフの日課は血を摂取する事ですが、時々、大きな姿になって抱きしめてもらっています。
抱きしめてもらったら小さな姿に戻り、それから血を摂取して寝るというのがお決まりのパターンなのです。
この旅で初めての野宿のこの夜、手を繋いで一緒に星を見たかったリーフは、血を摂取した後に大きな姿に変化したのですが、やっぱり眠気には勝てず、大きな姿のまま早々に寝てしまったのでした。
(ふふっ 大きな姿でも小さな子どもみたい^^)
テラはリーフのサラサラした前髪に手を伸ばし、
「今日よりもっと幸せな明日が待ってるわ、ゆっくりおやすみ。リーフ^^」
そう言って、眠っているリーフのおでこにキスをしました。
リーフが知らない秘密のおまじない。
テラが子供の頃、眠る際に母親がやっていたおまじないを、リーフが泣いたあの日から毎晩、彼にしていました。
これがテラの大切な日課なのです。
そうして眠っているリーフの横顔を見守り、テラは眠りにつくのでした。