【本編23 冒険編】「赤いベゴニア3」

大人も楽しめる絵本のイメージで物語を書いています。
よかったら読んでください😊
#本編23 冒険編
リーフはこんなに緊張したのはたぶん生まれて初めてで、手に持つ花束が重く感じられます。
(テラ、喜んでくれるかな…)
リーフは自問自答しながら、勇気を振り絞ってテラの正面に立ち、距離を縮めました。
「テラにこのお花を贈りたくて。テラはいつも優しくて、ぼくはお花もペンダントももらって。だから、、このお花はぼくからの気持ち…」
少し震えた声と共に微かに揺れる赤いベゴニアの花束を両手で持って、テラに差し出しました。
テラは驚いた表情でリーフを見つめ、次第に優しい笑顔が広がっていきます。
「わあ、かわいいベゴニアの花束!これ、私に?すっごく嬉しい!ありがとう!ベゴニア、いつ摘んだの?」
(私にベゴニアを選ぶなんて。リーフったら、なんてかわいいのかしら!しかもこんなに緊張して、もう、ほんとかわいい!!)
「今日、ファルに手伝ってもらって摘んだの。どうしても赤いベゴニアにしたくて…」
「そう^^ 私のために探してくれたのね。ほんとにありがとう。赤いベゴニア、すごく嬉しいわ」
(ベゴニアは恋する気持ちを伝えるのにぴったりな花言葉を持つわ。リーフったら、私に恋してるって感じなのかしら。幼い子が年の離れたお姉さんや先生に恋しちゃう話って聞いたことあるもの。まさにそんな感じかしら!ちょっと、かわいすぎない?)
テラはリーフが可愛くて可愛くて、表情がゆるみっぱなしです。テラと同じくらいの背丈になっていても、リーフの可愛いさはテラにとっては同じなのです。
リーフは緊張のあまり、思っていたこと、云いたいことがグルグルと回って思考をかき乱すので、これだけは云わなきゃ、とリーフはテラの青い瞳をまっすぐに見つめます。
「ぼく、テラが…好き…」
(やだ、どうしよう!!リーフがかわいすぎるんだけど!…い、いや、ちゃんと返事しなきゃだめよね!)
テラも、まっすぐにリーフの緑色の瞳を見つめながら「私も、リーフが好きよ^^」と優しく微笑んで応えました。
「ほ、ほんとに?テラもぼくのこと、好き?」
リーフはパッ!と明るい表情になって、再確認するようにテラに聞き返しました。
「ええ、大好きよ^^ リーフは血の匂いと同じくらい私のことが好きなの?」
血の匂いと比べるまでもなく、リーフはもちろん即答します。
「血の匂いよりもテラが大好きだよ!」
「そんなに?ふふっ^^ ありがとう^^ そうだ、お花はしおれちゃうと悲しいから、もらったばかりだけどリーフの依り代に仕舞っておいて?大切に保管しておきたいの^^ ほんとにありがとう、リーフ。リーフからお花を贈ってもらえるなんて想像してなくてビックリだったけど、すごく嬉しかった^^」
そう言ってテラはリーフの左頬に右手を伸ばしてそっと触れ、リーフの右の頬にチュッと軽いキスをしてニコッと微笑みました。
「!!!!」
頬に残る柔らかい感触に、リーフの霊核が急速に温かさを増していくのが感じられ、リーフは体の奥底から湧いてくるような昂揚感を覚えます。
(テラは前にも一度ぼくにキスした…あの時はよくわからなかったけど……今のは…)
「でも、もう遅いから血を飲まなきゃ^^ それに、冷えちゃうし。ね?」
そう言いながらテラはテントに敷いてある毛布の上に座り、花束を静かに置いて、裁縫道具から針を出そうと手を伸ばします。
「ま、待って!」
リーフは柔らかな温かい光を解放しながら、テラの動きを静止するように、後ろから優しく抱きしめました。
「待って。お願い」
「あったかいね、リーフ^^」
「これからはぼくが毎日こうしてテラを温めるから」
「温かいのは嬉しいけど、力を使うんでしょう?いいの?」
霊核がさらに温かく、熱くなっていくのを感じて、どうしようもなく高まる昂揚感にリーフは少し戸惑いながらも、ありのままの気持ちを声にします。
「もちろんいいよ。すごく幸せな気持ちなの…すごく嬉しくて…どうしよう。。わからないけど、もっと…」
「もっと?」
「わ、わからなくて…」
「ん?」
「……もっと、テラを温めたい…のかも」
「そう?ありがとう^^ あ、そうだわ。昨日の夜はファルと何のお話をしたの?リーフが寝ないで頑張ってたみたいで、どんな話をしてたのかなって気になっちゃった 笑」
「ファルはね、色々教えてくれるの。もう220年くらい生きてるって」
「ええっ!ファルってそんなに生きてるの!す、すごい…それってやっぱり、前に契約してたっていう精霊と関係あるんだよね?」
「たぶん。ファルは不老だったんじゃないかな。不死でなくても、不老で怪我も無く元気だったら不死と同等だもの。でないと人間はそんなに生きないもの。ぼくはテラの血の匂いが一番好みで大好きだけど、ファルの血もいい匂いだなって思うから。精霊はファルをほっとけない、かなり精霊好みの匂いがする。精霊との契約が一度だけってのが不思議なくらい」
「そうなのね。すごいなぁ、220年…あ、ねえ、ファルのお母さんって守り人だったりするのかな」
「その可能性は半々かな。守り人だとしても生きていない可能性のほうが高いよ。不老不死は稀だし不老も珍しいの。精霊と契約しても、普通の人と同じだけの生涯を送るのが大半だから」
「そうよね。契約する精霊の性質次第だものね」
「ファルのお母さんが気になるの?」
「そういうわけではないけど、ファルが母さんを思い出したって昨日言ってたから。でも220年も生きてたら…普通に考えたら、家族は誰もいないよね。ファルが契約を即決したり、旅に合流するのをすぐに決められたのは、それを気にする相手が居ない、ほんとに独りってことなのかなって。前の精霊と離れてからは、ずっと独りで生きてきたのかなぁ。220年は…簡単じゃないよね…」
「人にとって220年は決して短くはないね」
「私には今はリーフがいるけど、何年か経って、もしリーフと離れることになったら…私、独りで生きていけるかな。すごく孤独を感じると思うのよ。この世界に独りだけって」
「ぼくは絶対に何があっても、テラを独りになんかしないっっ」
リーフはテラを包む腕に力を込めて、ギュッと強く抱きしめました。リーフの強い意志表明と共に霊核が膨張し光を放ちます。
(テラを絶対に独りにしない…ずっと一緒にいる…)
「お願い、テラ。独りなんて言わないで。ぼくは離れないから…ずっと、テラといるから…」
幼さが残る少し高めの声で、テラの耳元でリーフが静かに囁きました。その声と共に、霊核がさらに強く輝き、その熱がテラに伝わるようでした。
「ありがとう^^ 温かくてポカポカしてなんだか眠くなってきたわ 笑…リーフに血をあげる前に私が寝ちゃう」
「…うん、そろそろ血をもらう時間…」
名残惜しそうにリーフはテラを抱きしめる腕を緩めてテラから離れ、花束を依り代に保管するために一旦どんぐりに入り、小さないつもの姿に戻ってどんぐりから現れました。
そして、いつものように血を摂取しましたが、今夜はテラにお願いしたいことがありました。
「ねぇテラ。ぼくが寝てしまう前に、おまじないを…」
「えっ!ファル?ファルに聞いたのね。もう!ファルったら。秘密にしてたのに」
「テラは秘密にしたかったのかもしれないけど、ぼくはすごく嬉しかったの…おまじない、してくれる?」
「わかったわ^^ バレちゃったら仕方ないわね笑 このおまじないは、ほんとは寝る前にするの。早く寝なさいって感じで 笑」
テラは小さなリーフのサラサラの前髪をなでながら「今日よりもっと幸せな明日が待ってるわ、ゆっくりおやすみ、リーフ」そう言って、おでこにキスをしました。
「うん、おやすみ、テラ」
霊核はほんのりとした温かさに落ち着き、安堵感、安心感がリーフの体に広がります。そうしてリーフはゆっくり目を閉じて、いつものようにすやすやと心地よい眠りについたのでした。
(テラのひとりごと)
あれ?そういえば…リーフは初めておやすみって言ったんじゃないかしら。
いつも何か話しながら、話の途中で寝てたもの。
寝たくないのに寝てしまって、リーフはおやすみが言えなかったのね。
今まで気付かなかったな…
でも、初めておやすみって言えたわ。
明日からは、おまじないは寝る前がいいわね^^
それにしても、リーフはどうしたのかしら。
急に私のこと好きだなんて。
赤いベゴニアだって、リーフが花言葉を知らないわけがないから、当然分かってて選んでるよね。
ヘリックスが言ってた”感情が伴わないとは限らない”って、このことだったのかしら。
“精霊だって感情はあるし恋愛だってする”とも言ってたし。
リーフは力は凄いけど800年も隠れてて人との関係が希薄で…色んな経験をしている最中だもの。
恋をするのも必要な経験だし、最初の恋が変なトラウマになったら大変よね…
とにかく、責任重大だけど、しっかり見守らないといけないわ!
……でも、もしもだけど、リーフが、精霊の性質と関係なく本気で私のことが好きなんて、あり得るのかな。うーん。。。まさか、ね…笑
テラは枕元で眠るリーフの寝顔をそっと見つめました。リーフの穏やかな可愛い寝顔を見ると、心が温かくなるのを感じます。
(この小さな可愛い精霊さん、リーフがこれからもずっと幸せでいられるように…)
そうしてテラも目を閉じて、温かい気持ちで眠りに落ちていきました。