The Acorn Spirit's Journey

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【本編27 冒険編】「フォールゴールド1」

【本編27 冒険編】「フォールゴールド1」

大人も楽しめる絵本のイメージで物語を書いています。
よかったら読んでください😊


 

#本編27 冒険編

5人の旅はノーサンロードを南へと順調に進み、ウェストクロスを出発して5日目のこの日、山間の宿場町になっているフォールゴールドに到着しました。

この町はいたるところにイチョウの木が植えられており、黄色に色づいたイチョウの落葉が美しい初冬の町を黄色く彩っています。初冬の冷たい風が吹き抜ける中、黄色い落ち葉がカサカサと音を立てて道端に集まっていました。

 

【本編27 冒険編】「フォールゴールド」

 

町で宿を探していると、通りかかった大きな広場の中心にとても立派なイチョウの木がありました。
太陽が沈みかける空は朱色に染まり、影が長く伸びる広場の中心に立つイチョウの巨木が、黄金の葉をきらめかせています。

「うわぁ!とても立派なイチョウ…この町はイチョウがいっぱいだけど、この木が町のシンボルなのね」

テラが立派なイチョウに感嘆の声をあげ、その広場を横目にしばらく歩いていると、小さな宿が目に留まりました。

「今日はここでどうだ?」

「そうね、こじんまりと可愛らしい宿だわ^^ 空いてるか聞いてみようよ」

テラとファルは宿に入り宿主に尋ねたところ、幸い部屋は空いていて、しかも朝食付き、夕食は別料金だけど食べられる!と聞き、速攻でここで2泊することにしました。

「腹減ったし、荷物置いたら食堂に行こうぜ!」

「ええ^^ 久しぶりの食堂でのご飯、楽しみだわ^^ どんな料理があるのかしら!」

荷物を置いたテラとファルは、リモを連れてさっそく食堂へ行きます。

 

ヘリックスとリーフだけが部屋に残っていて、しばらくは誰も戻ってこないため、この機会を待っていたかのようにヘリックスはリーフに話しかけます。

「ねえ、精霊王リーフ」

「!! …知ってたの。でも、ぼくはまだ精霊王じゃないよ」

リーフはヘリックスの言葉に驚いて振り返りながら答えました。

「いまはね。でも、精霊王になるわ。900年前、精霊王になるべく精霊界の意志として生まれたのよ。大地を統べる精霊王の世代交代。世代交代の象徴である私が知らないわけがないでしょう?」

そう言ってヘリックスはにっこりと微笑むのでした。

「分かんないよ。ぼくはまだこの姿のままだし。これじゃ精霊王にはなれないもの」

「たしかに、そうね。テラは…」

「テラは知らないの。テラには言わないで」

かつてのリーフの守り人、ライルには最初から言っていたけど、テラにはまだ言っていないこと。
それはリーフが、大地を統べる精霊王になるべく生まれた精霊であり、次期精霊王ということでした。

「どうして言わないの?羽だって隠してる」

「ぼくがまだ成長できてないから…あの羽も似合わないし…」

ライルと過ごしていた頃のリーフは精霊王の羽を隠しておらず、ライルを失ってリーフが神殿ごと隠れた際に、羽も隠してしまいました。羽はリーフの力でマントに形を変えている状態になっているのです。

「でも、力はとても強いようよ?どんぐり精霊のままでそれだけの力があるのに。数日前には更に力が解放されたわよね」

「やっぱり気付いたよね」

「気付くわよ笑 よかったじゃない?」

「あの力の解放は…ぼくがぼく自身を縛っていたもので。テラが、解いてくれたの…」

「ふふっ^^ それに、リーフは最近、積極的になったわ。今まで完全な受け身って感じだったけど」

「そう、かな…」

「定住地探しのエルナス森林地帯の話も、まさかリーフから話を切り出すとは思わなかったわ。ファルを誘っていたし、みんなにこれからも一緒にって。今までのリーフなら、黙ってたんじゃないかしら。リーフは自信がついたのね。それはやっぱりテラのおかげかしら」

リーフの胸に広がる温かな感覚。それはテラの言葉が彼の体に深く沁み込んだからです。
リーフは少し目線を落として、少しはにかみながら答えました。

「テラが言ったんだ。ぼくの光は温かいって。それが嬉しくて」

「そう^^ リーフの光が温かいのは、それはリーフがどんぐり精霊で”もてなし”からくる光だから。寛容と慈しみの光は温かで、それはリーフそのものなの。どんぐり精霊でよかったわね」

ヘリックスは優雅に微笑み、リーフの瞳を真っ直ぐに見つめます。

「ぼくはどんぐり精霊でよかったのかな」

「もちろんでしょ。胸を張っていいわね」

「ぼくは今まで、どんぐり精霊であることを良かったなんて思ったことが無くて。でもテラが…ぼくの守り人でよかったって。幸せって言ってくれて」

「ふふっ^^ テラを大切にしないといけないわね」

「と、当然だよ!」

リーフを見つめるヘリックスの優しい視線の先には、リーフへの深い理解と共感が宿っていました。

「それはそうと、気付いてる?この町」

「ここはイチョウの町フォールゴールド、イチョウの精霊、大地を統べる精霊王ジオの町だね」

「会っていく?」

「…うん……そうだね…ぼくはまだ会ったことが無いから…」

「さっき通った広場の中心にあったイチョウの巨木。あのイチョウよ」

「ありがとう、テラには内緒で行くから、そのときはテラのことお願いしていいかな」

「ええ、もちろんよ^^」

ヘリックスは、リーフが精霊王になるべく精霊界の意志として生まれた特殊な精霊と知っていただけでなく、”大地を統べる精霊王”の世代交代を見守る精霊でもあったのです。
リーフと共に旅をしようと思ったのは、単に興味本位だったのもありますが、その成長を見守るためでもありました。

そしてリーフは、このイチョウの町フォールゴールドで、『現』大地を統べる精霊王、イチョウの精霊ジオに会うことを決意したのです。

どんぐり精霊と少女の冒険

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